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A.クラネルト製 対応SIZE:オールデン7-7.5,ジョンロブ6.5-7,パラブーツ6.5-7,エドワードグリーン7-7.5,JM WESTON 598 6D-6.5D

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商品詳細情報

管理番号 新品 :V2291379100000
中古 :V2291379100001
メーカー その他 発売日 2025-07-21 12:25:50 定価 46800.00円
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A.クラネルト製 対応SIZE:オールデン7-7.5,ジョンロブ6.5-7,パラブーツ6.5-7,エドワードグリーン7-7.5,JM WESTON 598 6D-6.5D|その他



数年前に日本での活動を再開してから、一般の愛好家様のみならず、靴の製作や修理、流通に関わる業者様からも、様々なご質問やご依頼を受けてきました。

こうしたお問合せは、日々その質を変化させております。


その変化の1つに、以下のようなものがあります。


あるメーカーについてお問い合わせを受ける場合、以前は、Google検索で引っかかるメーカー、欧州や米国のフォーラム等で取り上げられるメーカーに関する内容が大半でした。

しかしながら、ここ数カ月程で、そうではないメーカーに関する内容が増えたのです。

皆さんの関心の対象が移り変わっている事の表れでしょう。


こうした変化を受け、今回の講演では "検索できない靴店" にフォーカスしたのです。




これをご覧になっている皆さんの多くも、関心の対象が "検索できる靴店" から "検索できない靴店" へと移っている事でしょう。

それに応えるべく、皆さんへ向けて、講演内容をベースにした長編コラムを書きました。

皆さんの知的好奇心を刺激できるコラムになったと感じておりますので、お楽しみいただければ幸いです。


講演のご参加者様は業界で働く方々でしたが、コラム読者様の大半は一般の愛好家様だと思われます。

それに配慮し、なるべく専門的な用語を省きました。


もしご不明な点がございましたら、ご遠慮なくご質問下さい。




以下をアドレスバーに入力し、新コラムをご覧ください。


stgb.press/i




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はじめに


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当ページはスマートフォンアプリでの閲覧に最適化しております。

PCからの閲覧で、文字が小さくて見づらい場合は、ブラウザの表示を拡大して下さい。

また、なるべく専門用語を使わないようにしておりますが、分かりづらい箇所があれば、ご質問下さい。

お手数をおかけしますが、よろしくお願いいたします。



原文 / Shiina Tohru

翻訳・編集 / H.H







日本の皆さんへ



私は、ミュンヘン在住の椎名と申します。

現在の本業は実業家ですが、"大がかりな趣味"というイメージで、職人や工房への出資・コンサルティングを長年行ってきました。

そして、同じく趣味の一環として、世界から集めた約1200のコレクションを、友人や日本の皆さんにお譲りする活動を行っています。

日本では、なかなか見る事ができない靴、なかなか触れる事ができない情報を提供し、皆さんに楽しんで頂けたら、と願っています。

どうぞよろしくお願い申し上げます。


なお、健康上の理由やコーディネート上の理由などから、幅広いサイズを所有していますので、すべての出品をご覧いただけますと幸いです。

また、発送や皆様へのご対応は、日本のアシスタントに任せておりますので、関税および海外送料等の費用はかかりません。ご安心くださいませ。







執筆等のご依頼について



インスタグラム(shiina_munich)へご連絡ください。

なお、靴に関するものであれば、お問い合わせ・取材・執筆等は、これまで同様に無報酬で対応させていただきます。

ただし、無報酬という条件のため、全てのご依頼にお応えするのは難しい事、どうかご了承ください。


また、当ページをご紹介される場合等につき、下記URL記載の内容を必ずご確認下さい。



stgb.press/ca







初めてご覧頂いた方へ



以前、出品ページに4つの長編コラムを掲載しておりました。

今回初めて私のページをご覧頂いた方へ向けて、それら4つを含む出品ページを以下に再掲してもらいました。ぜひご覧ください。

各論のタイトルの横にアドレスを記載していますので、アドレスバーにご入力してください。



【2020/9/14 追記】


これら4つのコラムが書かれたのは、約2年前です。

革靴を取り巻く状況は、当時から大きく変わっております。

したがって、加筆修正すべきかとも考えましたが、敢えてそのまま再掲しております。

如何に変わったか、については今後議論いたします。

以上の点にご留意頂いた上、ご覧ください。


なお、当時はアシスタントの翻訳・編集能力、および表現力が乏しかったため、読みづらい箇所が多々ございます。

その点につきましても、ご容赦頂けますと幸いです。





  • メンテナンス論 stgb.press/p

    ここでは、どんな哲学で革靴というものを捉えるのかを決め、その哲学から然るべきケアというものを考えています。

    また、ここでは、「なんとなく綺麗になった」「よく光るようになった」という印象で革靴の状態を見るのはやめて、革の構造と、革の健康維持の仕組みを理解した上でケアする事を述べています。




  • ヴィンテージ論 stgb.press/v

    色んなメディアで言われているように、昔の革靴の方が、革質も、縫製も、造りも、すべてレベルが高い。

    その背景を押さえ、さらには、革質・縫製・造り以外のヴィンテージ靴の長所についても言及します。



  • エイジング論 stgb.press/a

    革靴を選び、革靴を育てるプロセスで必要な考え方を紹介しています。

    また、私たちは何を目指して革靴を育てていくか、あるいは、現代社会で高級靴を履く事の意義は何か、という事についても言及しています。



  • 東欧靴論 stgb.press/e

    現在の一般論として、革靴の最高峰は東欧靴であるとされます。

    そうなった理由を、東欧世界と、東欧外の世界を対比される事で解説していきます。




なお、下記の『出品靴のご紹介』では、以上4つの議論を前提にしたコラムを載せています。

コラム内の文章末尾で、[ ]で表した箇所は、4つの議論の参照を意味しています。








前回の出品


以下をアドレスバーにご入力してください。


aucfree.com/items/s734763622

aucfree.com/items/k459909974

aucfree.com/items/r396263278

aucfree.com/items/o389163411

aucfree.com/items/x693196135

aucfree.com/items/x693220462










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出品靴のご紹介


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*** 今回の出品について ***









価値についての社会変化



・製品の価値



私は、これまで、製品の価値を有形価値と無形価値に分けて議論してきた。

この2つの価値について、改めて定義しておこう。

なお、私の定義は、一般的な定義とは多少異なるので、注意してほしい。



有形価値とは、製品が持つ価値のうち、実体のある価値(五感で感じ取れる価値)である。

例えば、軽さという価値、丈夫さという価値である。

無形価値とは、製品が持つ価値のうち、実体のない価値である。

例えば、あるブランドの製品だという事実が生む、印象の良さといった価値である。



鞄の軽さや丈夫さといった有形価値は、無人島でも生き、江戸時代の人々にも通じるだろう。

だが、その鞄のブランド価値という無形価値は、無人島では(それを見てくれる他人がいない状態では)消滅し、江戸時代の人々には通じない。


有形価値は、価値を認めてくれる他者や社会に依存しない。個人が五感で感じ取るだけで成立する。

無形価値は、自分以外の他者が、社会が価値を認める事で、成立する。

そういった意味で、有形価値は個人的なもの、無形価値は社会的なもの、と言える。






・製品の価値の変化



かつて、あるブランドは、丈夫さを売りにした鞄を製造し、それが流行になった。

その流行を受け、競合他社は、その鞄を真似た製品を製造した。


そこで、このブランドは、対策として、鞄にモノグラムをプリントする事にした。

すなわち、モノグラムのプリントによって「本当に丈夫なのは、この鞄ですよ」と保証したのだ。

この時点では、製品の価値の大部分は、有形価値である。


現代では、そのモノグラムが、ペラペラのTシャツにもプリントされ、高額で取引されている。

このTシャツは実体としては、大した価値がない。

すなわち、このTシャツの有形価値は乏しく、価値の大部分が、無形価値である。

このブランドは現在も鞄を販売するが、その鞄も、価値の大部分が、無形価値である。



その他多くの製品が、同様に変化してきた。

つまり、もともと、あらゆる製品は有形価値しか持たなかったが、やがて、無形価値も持ち始めるようになった。

そして現代においては、ほとんど無形価値しかない製品も多い。






・変化の妥当性



実体として価値のないものが高値で取引されている(ぺラペラのTシャツにモノグラムをプリントしたものが、高値で取引されている)事に、違和感を覚えるかもしれない。

しかしながら、これは、ごく自然な事だと言える。

われわれの最も身近にあるものが、完全に無形価値化しているのだ。



それは、貨幣だ。

もともと、貨幣は存在せず、海産物や農作物という実体の交換によって経済が成り立った。

やがて、それらの実体の価値の大きさが、金や銀の量で表現されるようになった。

そして今や、金も銀も必要ない。

金融機関による「この人は、いくら持っている」という保証があれば十分だ。

つまり、信用という無形価値だけで経済が成立する。


以上のような貨幣の価値の変化を考慮すると、製品の価値が、有形価値しかなかった状態から、有形価値と無形価値という2つの価値に分かれた事も自然に思える。

また、無形価値しかない製品が生まれた事も、自然に思える。






・無形価値への傾倒



そして、現代では、あらゆる製品が、無形価値へ傾倒している。

例えば、丈夫である事以上に、ブランド価値が高い事が重要になった。



現代では、人々は社会と常時オンライン状態にあり、ある製品に対して、社会がどんなイメージを持つか、極めてクリアに見える。

自分が良さを感じても、それを社会が貶せば、萎えてしまう。

反対に、自分が大して良さを感じなくても、それを社会が称賛すれば、嬉しくなる。

ともすれば、自分の感じ方よりも、社会が持つイメージの方が重要になる。

ネット上でのイメージが良い製品しか見ない、あるいは、自分がリアルで見て良いと感じても、ネット上でのイメージが悪ければ買わない、といった消費者も多い。

人々は、有形価値よりも、社会が持つイメージ、すなわちブランド価値という無形価値を重んじるようになった。



こういった消費者の変化に対して、現代のメーカーは、如何にブランド価値を作るかが大事である。

もちろん、例えば軽さや丈夫さといった有形価値も多少は必要だ。

だが、同じ軽さ、同じ丈夫さの鞄が2種類あったとして、かたや無名の1万円の品、かたやイメージの良い3万円の品があれば、確実に後者の方が売れる。

つまり、いくら品質が高くても、それだけでは売れず、品質以上にブランド価値が必要になる。

勝負は有形価値のフィールドではなく、無形価値のフィールドで繰り広げられている。






・無形価値へ傾倒する以前



かつて、人々は、自分が使用する事によって感じられる製品の良し悪しによって、購買判断を取っていた。

今ほど、社会が持つイメージ、ブランド価値を気にしていなかった。

というより、情報源が限定されたため、社会が持つイメージ、ブランド価値を知る機会も限られ、それらを気にする余地がなかった。

結局、売り場に行って、それを使用してみて、自分で価値を感じるしかなかった。

それに応じ、メーカーも、有形価値(品質)の高い製品を供給していた。


つまり、かつては、製品の価値の全部、あるいは大部分が、有形価値だった。

社会は、無形価値に傾倒する以前、有形価値に傾倒していたのである。







高級靴界の変化



高級靴の品質が落ちた、と至る所で言われて久しい。

それは、もはや常識と言えるだろう。

製造原価は、有形価値(品質)を高めるほど上昇するが、靴の価格に占める1足あたり製造原価の水準は、著しく低下した。


しかし、高級靴の価値が落ちた訳ではない。

高級靴の有形価値が落ちただけで、高級靴の無形価値は上昇し続けている。

むしろ、後者の上昇が激しいため、全体の価値(有形価値と無形価値の和)は上がっている。


現に、他の製品で類を見ないほど、高級靴の販売価格は上がり続けているが、その価格が消費者に受け入れられている。

これは、有形価値の低下分以上に無形価値が上昇して、高級靴の全体の価値(有形価値と無形価値の和)が上がった事を示している。


以上は、高級靴メーカー各社が、『価値についての社会変化』に対して、以下のようにアクションした結果である。




西欧靴界で、『価値についての社会変化』への対応が始まったのは、2000年頃である。

生産現場では、分業化・効率化を進めて、可能な限り製造原価を下げる。

価格をどんどん上昇させ、ラグジュアリー品としての格を作る。

価格上昇と、製造原価削減によって生まれた資金で、しっかりと広告宣伝を行い、世界の一等地に旗艦店を構える。



東欧靴界というのは、西欧靴界に比べて、保守的である。

そのため、彼らの『価値についての社会変化』への対応は遅れた。

現代でも、東欧靴界には、有形価値で勝負する意識が残っている。

しかしながら、東欧靴界においても、有名メーカーは変化しており、その変化は、特に直近1年程で急激に加速した。






・実業家としての見解



高級靴メーカーによる以上のアクションに対して、実業家としての私の見解を述べる。


彼らを、私は高く評価する。

それが有形価値だろうが、無形価値だろうが、価値を増大させた事は素晴らしい。


また、このアクションは、彼らが生き残り、ひいては高級靴産業が生き残るためには、必要である。

社会が求めるものを供給できなければ、衰退するしかない。


東欧靴界も、有名メーカーに限るものの、これから一気に無形価値への傾倒を強めるだろう。

既に、ラグジュアリー系のモデルを発売したり、ハイラインまでも他社生産に切り替えている。

このアクションも、生き残りのためには、必要だと考える。






・靴好きとしての見解



続いて、1人の靴好きとしての私の見解も述べる。


私は、個人的な趣向として、無形価値よりも有形価値を重視する。

つまり、ブランド価値が高くてステータスを誇れる事よりも、革質が良い事や、履き心地が良い事、耐久性が高い事を求める。


もちろん、無形価値が一切要らない訳ではない。

理想は、「有形価値が高いが故、結果的に、いわば副産物的に、無形価値も帯びている」といった状態だ。

バブル期に、初めて大々的に英国靴が来日した時には、高級靴がこの状態にあったと言えるだろう。



だが、高級靴は、遥か前に、この理想状態を通り過ぎてしまった。

すなわち、無形価値へ傾倒し過ぎた。

ここ20年間、継続的に、有形価値を低下させつつ、無形価値を上昇させている。



したがって、1人の靴好きとしての私、有形価値愛好家としての私は、『価値についての社会変化』に対する高級靴界のアクションを、マイナス評価している。

無形価値を上昇させるのは良いとしても、せめて、同時に有形価値も上昇させてほしい。



社会が無形価値を求めている以上、生き残りのために、無形価値を創造する必要があるのは仕方ない。

無形価値を創造するためには、莫大な販管費がかかり、その財源確保のために、値上げするのも仕方ない。

だが、値上げしつつ、有形価値(品質)を低下させる(もしくは現状維持とする)のは、不満である。

つまり、値上げする度に、製造原価水準も上げて、有形価値(品質)も高めてほしいのだ。

無形価値も上昇させ、有形価値も上昇させてほしい。

各メーカーが値上げする際、材料費等の製造原価高騰が原因であると説明される事がある。
特に、店舗スタッフやメディアは、そう説明する事が多い。だが、これはあくまでも販促目的の建前である。




たしかに20万円の靴は、靴好きでない者にとって、高価に思えるだろう。

だが、高級時計に比べれば遥かに安い。安すぎると言って良い。

したがって、製造原価の水準を上げて、有形価値(品質)を高めた結果、販売価格が高騰していくのは問題ないと思っている。






・有形価値愛好家の減少、無形価値愛好家の増加



このコラムをご覧になっている皆さんは、有形価値愛好家だと思う。

したがって、あなたも、私と同じく、以下のような見解をお持ちではないだろうか。



無形価値よりも、有形価値を重視する。

だが、無形価値が要らない訳ではない。

理想は、「有形価値が高いが故、結果的に、いわば副産物的に、無形価値も帯びている」という状態。

値上げしつつ、有形価値を低下させる(もしくは現状維持とする)のは不満である。

つまり、無形価値も上昇させ、有形価値も上昇させてほしい。

有形価値の上昇によって、価格が高騰するのは問題ない。





しかしながら、皆さんのような有形価値愛好家は、どんどん稀有な存在になってきている。

そして、無形価値愛好家が、どんどん増殖している。



おそらく、ここまでの議論や、ヴィンテージ論をご覧になって、あなたはこう考えているのではないだろうか。

「いやいや、そんなに品質を落としたら誰も買わなくなるはず。だから、高級靴の品質が下がり続けても、スーパーブランドのTシャツやクォーツのような、ほとんど無形価値しかないレベルまでは品質は下がらない」

その考えには、有形価値愛好家としての強いバイアスがかかっている。

正しくは、「誰も買わなくなる」のではなく、あなたが買わなくなるのである。



いわゆるスーパーブランドは、一般的には1.5万円程で売られる品質の靴に、15万円程度の価格を付ける。

そして、その靴は、高級靴メーカーの靴よりも売れているのだ。

という事は、今の高級靴メーカーは、少なくとも、「一般的には1.5万円程で売られる品質」までは品質を下げる事が出来る。

つまり、彼らも、スーパーブランドと同様のビジネスができる。

将来的には、ほとんど無形価値しかない革靴を売るようになっても、何らおかしくない。


そう予想できる程に、社会は無形価値に傾倒していて、無形価値愛好家が増殖しているのだ。

あなたも私も少数派なのである。







サンクチュアリ化したギルド




『インビテーション制ギルドへの道標』で説明した通り、インビテーション制ギルドは、究極の最高品質を実現するべく、ありとあらゆる手を尽くしている。

つまり、彼らは、完全純粋に、有形価値創造のためだけに、全エネルギーを注いでいるのだ。

そして、その結果として、「現実に、究極の最高品質を実現している」というコンセンサスを形成できているため、彼らは今日も存続している。

その一方、前節で述べた通り、一般的な高級靴メーカーは、無形価値へ傾倒し、無形価値の創造に多大なエネルギーを注いでいる。


つまり、インビテーション制ギルドと、その他のメーカー達は、真逆の方向へ向かっている。

それ故、両者は完全に断絶している。



インビテーション制ギルドの周囲には、見えない壁がある。

人々は、誰も壁の向こうに行くことはできないし、誰も壁の向こうに何があるかを知らない。


だが、実は、その壁の向こうには、とんでもない靴がある。

もちろん、人々は、それを手にする事も、見る事もできない。


インビテーション制ギルドは、現代の高級靴界における、いわばサンクチュアリになった。






有形価値傾倒時代における、一般メーカーとギルドの関係。



かつて、人々は、自分が使用する事によって感じられる製品の良し悪しによって、購買判断を取っていた。

今ほど、社会が持つイメージ、ブランド価値を気にしていなかった。

というより、情報源が限定されたため、社会が持つイメージ、ブランド価値を知る機会も限られ、それらを気にする余地がなかった。

結局、売り場に行って、それを使用してみて、自分で価値を感じるしかなかった。

それに応じ、メーカーも、有形価値(品質)の高い製品を供給していた。


つまり、かつては、製品の価値の全部、あるいは大部分が、有形価値だった。

社会は、無形価値に傾倒する以前、有形価値に傾倒していたのである。




私が知る限り、インビテーション制ギルド(インビテーション制の靴店、実質的にインビテーション制の靴店)は、19世紀から存在していたようだ。

すなわち、インビテーション制ギルドは、社会が有形価値に傾倒していた時代にも存在していた。


この時代においては、ギルドと一般的な高級靴メーカーが、同じ方向へ向かっていた。

つまり、両者とも、有形価値を追っている状態にあった。

そして、両者は断絶していた訳ではなく、ごく稀ながらも、取引を行っていた。




一般的な高級靴メーカーは、数年に一度、通常製品よりも品質を高めた特別製品を企画し、それをインビテーション制ギルドへ発注した。

あるいは、そういった特別製品に用いるレザーを、ギルドのプライベートタンナーに発注していた。


『インビテーション制ギルドへの道標』で述べた通り、インビテーション制ギルドは、多額の固定費を抱えており、その固定費を少数の顧客で分担している。

そのため、少し販売数が減っただけで、一気に運営が苦しくなる。

そこで、そういった場合のヘルプとして、一般的な高級靴メーカーからの仕事を受けた。

特別製品だけの生産、あるいは、特別製品だけに使うレザーの納入であれば、受注数が少なく、 彼らの生産体制に影響しない。

"穴埋め" として、最適だった。


一方、一般的な高級靴メーカーの側にも、大きなメリットがあった。

市場に有形価値愛好家が大勢いる状態では、インビテーション制ギルドにしか出せないハイレベルな品質は、最高の餌になる。

数年に一度、その餌を撒くことは、かなり有効な集客方法になった。


ギルドに生産を委託したり、彼らからレザーを仕入れると、製造原価は極めて過大になる。

もちろん、メーカーはそれに応じて販売価格を上げた。

それでも、ほとんど利益は出ず、場合によっては赤字になったようだ。

しかしながら、その特別製品を"餌" にして集客すれば、全体としては利益増が見込めた。

ギルドにしか出せない品質というのは、それほどまでに、強いインパクトがあったのだ。




現在は、両者の間に、以上のような取引関係はない。

現代では、市場に有形価値愛好家が少なく、無形価値愛好家が大多数である。

すると、特別な品質を提示しても、大した餌にならない。

したがって、現在は、一般的な高級靴メーカーがギルドと取引する事はない。






高級靴界の良心と、インビテーション制ギルド。



われわれ有形価値愛好家にとっては、有形価値(品質)の高い靴を製造するメーカーが、良いメーカーである。

この観点で、一般的な高級靴メーカーの中で、最も良い(良かった)メーカーは、旧エドワードマイヤーと旧ディンケラッカーである。


旧エドワードマイヤーとは、80年代後半から外注化するまでの、エドワードマイヤーを指す。

旧ディンケラッカーとは、90年代半ば以降のいわゆる後期アポロ時代から、00年代前半までのディンケラッカーを指す。



近年、特に直近1年は、マイヤーもディンケラッカーも、変革を強いられている。

マイヤーに関しては、複数ラインの外注先を変更する事で原価低減を図りつつ、アパレル等に力を入れている。

ディンケラッカーに関しては、プラダ傘下後のチャーチを見習って、ラグジュアリー系のモデルも企画し、広告宣伝に力を入れている。

ここまで社会が無形価値に傾倒すると、彼らも変わらざるを得ないのだ。

変革は、生き残りのために必要だ。



しかしながら、変革前の彼らは、ただただ有形価値の追求にエネルギーを注いでいた。

そして、旧時代の彼らの作は、一般的な消費者が購入できる既成靴のうちで、最も有形価値が高かった。



旧時代において、彼らは、有形価値追求の手段の1つとして、インビテーション制ギルドと取引した。

そのうちで有名なものは、エドワードマイヤーからヴォークへの生産依頼、あるいは、ディンケラッカーからG.ギレスベルガーへのレザーの発注である。


全ての高級靴メーカーのうちで、彼らが最も熱心にインビテーション制ギルドと取引していたと言えるだろう。

やはり、彼らこそが、われわれ有形価値愛好家の良心だ。







今回の出品について



講演の後、ご参加者様から、どうにかしてクラネルトやギレスベルガーの靴を譲って欲しいと、ご要望を受けた。

コラムをご覧になった方も、同様のご要望をお持ちだと思う。


だが、当然ながら、招待者だけが購入できる靴を他者に譲る事は出来ない。

そこで、旧マイヤーや旧ディンケラッカーが、インビテーション制ギルドと関わって生産した靴を出品する事にした。

これらの作であれば、もともとオープンな製品(インビテーションがなくても買える製品)であるため、自由に譲渡できる。





今回の出品は以下6点である。


ヴォーク製エドワードマイヤー(2点)

ギレスベルガー・ボックスカーフ製ディンケラッカー(3点)


これらに加えて、クラネルトが70年代にウィンザーに向けて生産した靴も出品する。

こちらは、マイヤーでもディンケラッカーでもないが、他の靴と同じく、一般メーカーに向けて生産されたオープンな製品(インビテーションがなくても買える製品)であるため、同時に出品する事にした。






*** このページの靴 ***







70年代、A.クラネルト製のウィンザーの靴。

この時代、ウインザーは積極的に色んな工房に発注したが、その中には、クラネルトもあった。

ただし、クラネルトへ発注したのは、このモデルのたった1度限り。

しかも、56足しか作らなかったらしい。

したがって、A.クラネルト製ウィンザーで、現存するのは、この個体だけかもしれない。



クラネルトはベビーカーフを多用するが、この作にも、ベビーカーフを用いている。


ベビーカーフと言えば、ジョンロブロンドンのビスポークが思い浮かぶだろう。

そして、ベビーカーフのジョンロブロンドンは、時に "ガラスの靴" と揶揄され、数年履いているとバリバリに割れてしまう。


ただでさえ、生後間もない子牛は網状層の発達が悪いのに、肌理の細かさと柔らかさを追求すれば、極めて脆弱な原皮を採用する事になる。

したがって、子牛の飼育方法(食糧や気候等)から緻密にこだわり抜かない限り、バリバリに割れる運命にあるのだ。

だが、当然ながら、ジョンロブのような一般的なメーカーは、ここまで深くコミットしない。



その一方、『インビテーション制ギルドへの道標』で述べた通り、クラネルトはタンナーを垂直統合し、原皮生産、子牛の飼育方法にまでコミットしている。

そして、クラネルトのベビーカーフは、ジョンロブロンドンのベビーカーフが、その脆弱性を克服し、美と強さを完璧に併せ持ったものだと評されている。

40年以上経過してもなお、万全な状態で現存している本作は、その証明である。










■ サイズ



表記UK7F(標準ウィズ)

ヴィンテージですので、小さめです。現代の靴のUK6.5程度に対応します。


なお、タイトル中参考サイズとして、この出品靴のサイズ感に近いものを挙げています。

あくまでも参考になりますので、詳細につきましてはご質問頂けますと幸いです。

日本で手に入るラストでしたら、UK6.5相当からUK8相当まではほぼ所有しておりますので、普段お履きの靴のモデルおよびサイズをご教示下さい。







■ コンディション



ヴィンテージ品ですので、それなりに経年変化および使用感が見受けられます。

ただ、ハーフラバーの貼り付け以外の補修歴等もなく、革内部の健康状態も完璧です。

ヴィンテージに慣れている方であれば、問題のないコンディションだと思われますので、ご安心ください。

革のケア方法については、インスタグラム(shiina_munich)やメンテナンス論を参考になさって下さい。







■ ご注意事項



・革製品ですので、文章や画像で表現しきれない皺、傷やざらつき、汚れ等は必ずあります。

・しかしながら、通常使用では発生しないダメージ、修理が必要な致命的なダメージは記載致しますのでご安心ください。

・顔料仕上げでは、原皮の表面が加工で隠されますが、アニリン仕上げ、染料仕上げでは隠れません。

・履きおろし済みの靴に関しては、30分から60分のテスト歩行を行っています。『致命的なダメージ』とは、このテスト歩行で発見できるものを指します。

・私の靴に限らず、古靴で接着層がある場合、経年で接着剤の力が弱くなっているケースがあります。

・ご覧になる環境で色の表現が微妙に異なる点をご了承ください。

・どんな些細な事でも気になること(特に状態とサイズ、色につきまして)はご質問下さい。誠心誠意対応いたします。

・特段の記載がなければ、靴本体以外の付属品はありません。付属品がある場合は記載いたします。

・入札者様の評価欄を拝見し、状況次第では、入札を削除させて頂きます。

・返品、キャンセル、代理での再出品は不可とさせていただいておりますので、よくご検討の上でのご入札をお願いいたします。








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9月20日


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われわれにとっての、大きな一歩。




現代では、無形価値への傾倒がどんどん強くなっている。

強いブランドイメージによって、人々は、真に高品質とは言えないものを、高品質として刷り込まれている。

世界には、もっと良いものがあるのに...



私は、この状況に対して、過去のマスターピース(現行品ではないもの、ヴィンテージ品)を紹介する事で対応してきた。

数十年前の逸品をお渡しできる事に、私は特別な喜びとロマンを感じていたし、皆さんもそれを感じてくれていたと思う。

だが、われわれは、その裏で、先々の闇を想像し、悲観していた。

すなわち、過去のマスターピースが枯渇した後は、どうすれば良いのだろう、と。



だから私は、過去のマスターピースを紹介しつつも、現在進行形で "本当に良い靴" が生まれている場所を公開せねば、と考えてきた。

その場所とは、インビテーション制ギルドだ。


実は、今回の講演のずっと前から、インビテーション制ギルドについて語りたいと考えていたのである。

だが、その実現は、かなりの困難を極めた。




彼らの存在がオープンになる事は、彼らにとって危険である。

それが、何年か先の崩壊に繋がる可能性があるからだ。

元々クローズドで(特定少数の顧客を対象として)運営されていた工房へ、大衆が流入し、一気に生産量が増えて、結局は平凡なメーカーになった事例は、あまりに多い。

したがって、彼らは、自らの存在を秘密にしようとする強い意思を持っている。

この事情故、情報公開の許可が下りなかった。





私の元には、皆さんから、日々沢山のメッセージが届く。

そのメッセージを読めば、如何に皆さんが靴を愛しているか、如何に皆さんが本質を見ているかが分かる。

それをまとめて翻訳し、「日本には、こんなにも情熱的な靴好きがいるんだ」という事を、何か月にも渡って、彼らに繰り返し伝えてきた。


それがようやく実を結び、なんとか、ギレスベルガーとクラネルトから協力を得られたのだ。

皆さんが、彼らの存続を脅かす者ではなく、むしろ彼らの理解者である事を、分かってもらえた。



これは、皆さんも含め、われわれ全員で進めた、大きな一歩である。

改めて、皆さんと、そして、われわれの事を受け入れてくれた、ギレスベルガーやクラネルトに感謝したい。

本当にありがとう。









次の一歩




だが、これだけでは不十分だ。

宝の在り処は示せたが、宝への道がない。

すなわち、実際に皆さんが、インビテーション制ギルドによる作を手にする機会がない。


現状では、結局、過去のマスターピースを提示する事しかできない。

現に、今回の出品も、旧エドワードマイヤーや旧ディンケラッカーの出品である。



次の一歩は、ギルドによる現行作を手にする機会を作る事だ。

当然ながら、この前進は、これまで以上に困難を極めるだろう。

数年でどうにかなる、というものではない。

まだ完全に夢の話で、何の段取りも決まっていない。



だが、やはりわれわれは、この目的に対しても、最大限のエネルギーを注ぐつもりだ。

皆さんが、宝を求めれば、宝を手にできる、そんな世界を強く望むからだ。









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© 2020 Tohru Shiina




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